バッハの『無伴奏チェロ組曲』は、独奏のチェロのための全6曲からなる組曲。
聴くたびに違う魅力が溢れて来る聴き飽きない名曲である。最近、またハマり出し聴いている。
元々「練習曲」とは見なされておらず、しかも自筆譜が現存していなかったことから、この曲は長い間忘れ去られた存在であったようだ。しかし、チェリストのパブロ・カザルスが初の全曲録音を残したことにより、一躍有名な作品となった。
その中でも『第1番 ト長調 BWV 1007 プレリュード』に焦点を当てて聴いている。
シンプルながら演奏者によってアプローチが全く異なるため、大変面白い。
色々と聴いて感じたことを紹介してみたい。
先日のポストでもご紹介したゲリンガスのプレリュード。
自分の思うプレリュードにイメージが近い。
何処か懐かしさと儚さも持ちながら、旋律の安定感が見事である。
■パブロ・カザルス
復活の立役者による歴史的録音。しかし、録音の良いものはない。
まあ、古い録音だから仕方がないのだが…。1930年代の録音だ。
一番情熱的で聴いていてワクワクする印象。気づくとずっと聴いてしまう不思議な魅力のある演奏。流石、チェロの神様だ。
■ピエール・フルニエ
よりクラシカルで気品溢れる演奏。1961年頃の録音のものだ。
熱量よりも美しさ重視の演奏でお好みの方も多いだろう。
正直、らしさはこの演奏が一番。崩した表現がキャラクターになり得る曲だが、原曲を重んじた思慮深さがあり日本人好み。自分が貴族になって楽団を呼んで演奏してもらっている、そんな偉くなった気分になれる。
■ヨーヨー・マ
現代的な演奏ならこのヨーヨー・マ。この曲は過去3回ほど20年に1回ほど録音を行っている。
中でも初期のこの演奏(1983年)がノスタルジー感のある表現で素晴らしい。音の軽快さが何とも新しい風を吹かせている。
映像も多く残っているが、弓の使い方が非常にスムーズ。まるで神経が繋がっているかのよう。
後の演奏では、より技術が発展し自分のものにしている感、そして今時な感じになっていく。
■アンナー・ビルスマ
1979年の演奏。ガット弦・バロック弓でバッハの時代の様式で奏でる。
素朴ながら力強い演奏で小奇麗に歌い上げるような感じではなく、一音一音を丁寧に伝える「語り」のような説得力もある。当時の雰囲気を感じるとこれまでの演奏者の表現もまた印象が変わってくる。
■ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ
1991年の録音。全6曲を録音した初めての演奏。
これまで、1955年、77年などなど数多く演奏しているが、単発で第2番、第5番だけでの演奏も多い。
1955年盤も少し粗削りな感じだがそちらも見事。20代の力ある演奏で全然印象が違う。
今回のは60代の演奏で丁寧さが数段上がり、とても深みのある芳醇な演奏だ。
歴史的な演奏を中心に紹介してきた。どれも素晴らしい演奏ではあるがお好みは見つかっただろうか。まだまだ多くの演奏を残しているから、当分この曲にどっぷり浸かることになるだろう。
名曲・名演奏・名録音が揃って初めて、オーディオ本来の力が発揮される。
そして、その違いをじっくり聴き分けられるのも、良いオーディオがあってこそだ。
この相乗効果によって一生楽しめるのが、オーディオという趣味の魅力だと感じている。