先日、バイオリン製作の動画を視聴した。
一本の楽器が生まれるまでの工程を追う中で、あらためて気づかされたことがある。
バイオリンの音の根源は、確かに張られた弦にある。
しかしその微弱な振動は、筐体へと流れ込み、アナログ的に増幅されることで、初めて魅力ある音色になる。
弓で擦られた弦の振動は、駒(ブリッジ)を通じて表板に伝わる。
そこから魂柱(こんちゅう)という一本の細い木の棒が、表板の振動を裏板へと橋渡しする。
表板と裏板、その間の空洞、f字孔から抜ける空気。すべてが連動して初めて、あの豊かな音量と音色が生まれる。
魂柱の位置がわずか1ミリずれるだけで、音色は別物になると言われる。
弦楽器の職人が本体の木材、厚み、アーチの形状にあれほど時間をかけるのは、振動を最終的に音に変えているのが「本体」そのものだからだ。
■ストラディバリウスの価値はどこにある
バイオリンの中で最も高価なものといえば、ストラディバリウスだ。
その価格は何十億円にもなる。現存するのは600本ほどとされ、希少であること自体も価格を押し上げている。
だが、それだけではない。奏でられる音色そのものが優れているからこそ、これほどまでに愛されている。
その理由は一つではない。
小氷期のヨーロッパで作られ、年輪の詰まった目の揃った木材が使われたこと。筐体の振動特性が個体ごとに近く、安定していたこと。接ぎ合わせに使われた接着剤の質や量、塗布の一定さも、音色に少なからず影響しているのではないかと考えている。
そして何より、アントニオ・ストラディバリ自身の腕の良さが大きい。
同じ木材、同じ工程を与えられても、仕上げる職人の技量次第で本体の鳴り方は変わる。
どんなバイオリンであっても、仕組みそのものは変わらない。最初は弦を震わせたことによる振動から始まる。そこはどれも同じだ。しかし音色の魅力度は、弦では決まらない。
比率で言えば、筐体の方がはるかに大きい。ストラディバリウスに価値があるのは、まさにここに理由がある。
弦は消耗品として張り替えられ、ガット弦からスチール弦へと素材そのものも時代によって変わってきた。
それでも「ストラディバリウスの音」として評価され続けているのは、弦が変わってもボディの音響特性が変わらないからに他ならない。
■イヤホンの音を決めるのも「筐体」
この関係をイヤホンの各部位に当てはめると、弦はドライバーに、ボディは筐体にあたる。
昨今のポータブルオーディオ業界では、このドライバーにばかり注目が集まっている。これまでにない駆動方式が次々と採用され、進化を続けている一方で、筐体には作りやすさやコストを優先し、音響特性としてはネガティブな要因を持つ樹脂が採用されることが多い。
樹脂には、人間の耳という複雑な形状に合わせて加工しやすいという利点がある。
射出成形で細かな曲面も量産でき、コストも抑えられる。
しかしその加工のしやすさと引き換えに、素材そのものの響きの良さは犠牲になる。
クラシックの世界でも、プロの演奏者が樹脂製の楽器を選ぶことはまずない。
バイオリンは木材、金管楽器は真鍮。「ブラスバンド」という呼び名自体、楽器の主要な音響体が真鍮(ブラス)であることを前提にしている。
これは伝統や見た目の問題ではなく、樹脂では出せない響きがあるからだ。
プロが妥協しない領域には、すでに答えが出ている。
■Metal & Wood Earphoneが選んだ答え
ローゼンクランツの Metal & Wood Earphone は、この筐体の音響特性そのものを設計の中心に据えている。
- フェイスプレート(木材):ハードメイプル、パオロサ、花梨
- シェル(真鍮):クロームメッキ、18kメッキ、無メッキ
木材3種 × 金属仕上げ3種で、計9通りの音色を実現した。
徹底した寸法設計のもと、木材と真鍮という楽器の世界でもメジャーな素材を採用している。
ここには、楽器づくりと同じ設計理念がある。
筐体ごとに形状を大きく変えてしまうとこの素材やメッキによる音の違いは、聴き分けにくい。
弦だけでは、バイオリンは鳴らない。
ドライバーだけでは、イヤホンも本当の音を鳴らせない。
それほどに、筐体の素材や形状が音の要素として重要なのである。そのことを皆さんに知って欲しいのだ。
ローゼンクランツは、素材を最も生きたカタチで活かすことの出来る稀有なメーカーなのだ。

価格はRK-HM Chromeで¥50,000(税別)から。
デモ機はフジヤエービックに用意している。
小売店として卸しているのも同店のみである。
本物志向のオーディオファンには、ぜひ一度試してほしい。
